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大阪高等裁判所 平成3年(く)75号 決定

少年 M・Y(昭46.10・11生)

決  定

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書に記載しているとおりであって、その要旨は、要するに、本件非行事実はA方への住居侵入2件であるのに、少年が右Aの長女B子の妊娠中絶に関するカルテを盗みそれを同女の家や同女の家の近所の者に送り付けたことを重視し、少年を中等少年院(一般短期)送致処分に処したものであるところ、(1)右事件は被害者であるB子から事件として取り扱わないように警察に申し入れているから事件としては成立していないものである、(2)少年のしたこの行為は常軌を逸したものであるが、少年もB子の母親から母校や近所の者に「もう半年も前から娘のB子にしつこくつきまとい、挙げ句の果てには殴りさえする。この子は気違いなのか。」など言いふらされて変態扱いされ、名誉を傷つけられたので、B子に対し同女の母親に真実を告げ、少年に対する不当な行為を止めさせるように頼んでも、生返事だけで、かえって、同女の友人から少年あてに脅迫電話をかけさせ、追い詰められた少年が周りに理解・助けを求めても、警察でとりあってくれないので、B子や同女の母に対して、少年の屈辱に対する代償を払わせるためと汚名をそそぐため、並びに少年の言葉どおりの真相を皆に認めさせるため、この非人間的行為に及んだものである、(3)少年は、昨年夏以降、B子と3回性交渉をもったが、同女は家裁でそのうちの1回は無理にされたと供述し、自己に不利なことは一切述べていないところ、同女の供述のみを一方的に信用して本件処分が決定され、そのため少年に対する情状の酌量はなく、少年は本件による観護措置処分のため大学入学を棒に振ってしまった、(4)以上の理由により、本件処分は重すぎて著しく不当であるから取り消されたい、というのである。

そこで、所論にかんがみ一件記録を調査し、当審における事実取調べの結果に照らして検討するに、原決定の非行事実は、住居侵入2件である。しかし、本件はいわば特別な事案であって、右住居侵入とその前後の経緯をみてみると、以下のとおりである。すなわち、〈1〉少年は、昭和63年10月ころの兵庫県立○○高校2年時、県立○△高校2年のB子と知り合って交際を始め、その3学期に同女と性交渉をもつようになり、翌平成元年12月にB子の妊娠が判明し、同女と費用を出し合って中絶した。〈2〉少年は、同月25日ころ、B子の部屋に入ろうとしたところをB子の母に見つけられ、少年の家に怒鳴り込まれ、B子と共にそれぞれ親から交際を禁じられたが、B子との交際を続けていた。〈3〉少年は、平成2年3月末ころ、B子と話し合いの末別れることになったのに、翌4月1日B子の家に行き、同女と喧嘩となって、路上で同女に暴力を振るったところを又もB子の母に見付けられ、B子の親から少年の親に怒鳴り込まれ、近くの派出所や少年の卒業した高校の元担任教師にも訴えられた。そこで、少年は、親、教師と同行してB子の親に謝罪し、また派出所から親と共に呼び出されて調べを受けた。〈4〉少年は、同月中旬、B子が妊娠中絶を受けた医院からそのカルテ等を盗み出し、そのカルテ等の全部又は一部のコピーを、翌5月6日B子あて郵送したのみならず、翌日同女の女友違に渡し、さらに同月中旬には同女の近所の人や、自分の男の友人に郵送した。〈5〉少年は、同年5月7日ころから、岐阜の伯父に預けられて受験勉強の傍らアルバイトをしていたが、時々立ち帰っていたところ、同年6月B子から警察に、少年が立ち帰ってB子と会い、金がいるので10万円出さなければコピーをばらまくぞと言って同女を脅した旨届け出られて少年の父が警察に呼び出されたこともあった。その後少年は、同年8月からは自宅に戻り予備校に通っていた。〈6〉少年は、同年9月ころ、B子と性交渉を3回位もったが、そのうち1回は同女の合意に基づくものではなかった。〈7〉少年は、少年の父が警察から呼び出された同年9月26日の晩、父に酷く殴られ、母から出ていけ等と言われたことから、翌27日家出し、パチンコ店に住み込んで働きながら、受験勉強を続けていた。〈8〉少年は、同年10月8日午前8時30分ころ、B子に復縁を迫る目的で、A方2階ベランダに侵入し(同年11月2日付け送致事実)、同月31日逮捕をされたが、家裁において帰宅を許された。〈9〉同年12月末ころから翌平成3年2月ころにかけて度々少年のところに男の声で嫌がらせの電話がかかってきた。〈10〉少年は、大学受験に不合格となった。〈11〉少年は、同年2月18日午前10時15分ころ、B子と会う目的で、A方2階ベランダに侵入し(同年2月20日付け送致事実)、現行犯人逮捕された。〈12〉なお、少年にはこれまで全く前科前歴はなく、小、中、高校を通じて、成績は悪くない上、右に述べた外には何らの問題となるような行為もみられず、少年の家庭も両親がとも働きの平均的家庭であって、格別指摘する点も見当たらない。

そこで、原決定の処分について検討するに、以上の経緯、事情を踏まえると、確かに、少年はB子との交際に至るまでは全く表面上問題がなく、一般の非行少年に見られる場合と異なり、他の非行少年との交遊はなく、非行性の深化もないといえる。そして、本件非行事実は住居侵入2件に過ぎず、少年の資質、少年と保護者との関係等に照らせば、少年を在宅により指導、更生させる途を選ぶこともできないわけではないが、単に本件非行事実である2件の住居侵入の事実だけをみることはできず、これらは前示経緯、事情の中において発現した非行にほかならない。そうすると、前示経緯、事情、とりわけ、原決定も重視している〈4〉のカルテのコピー等の頒布、郵送は少年の要保護性が高いことの現れであって、少年の性格的偏向を軽視できず、他方、少年としてB子に負わせた精神的衝撃は重大であって、少年としてそのことに対する責任を負うこともまた不可欠であると考える。そうすると、〈12〉の点を考慮し、かつ、抗告申立書記載の少年の言い分及び当審において少年を審問した結果を十分に参酌しても、少年を少年院に収容して矯正教育を施ず必要があるといわなければならない。そして、少年にはこれまで全く非行歴がなく、一般の非行少年の場合と異なり、非行性も進んでおらず、非行少年との不良交遊関係も全く見られないこと等の前示諸事情に照らせば、少年に対する少年院の矯正教育が長期間である必要はなく、一般短期の処遇勧告を付している原決定は相当である。したがって、少年を中等少年院(一般短期)に送致した原決定が著しく不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よって、少年法33条1項、少年審判規則50条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高橋通延 裁判官 萩原昌三郎 正木勝彦)

抗告申立書

少年 M・Y

右の者に対する住居侵入保護事件について、平成3年3月25日中等少年院送致の旨決定の云渡を受けましたが、左記の理由によって不服につき申立てます。

平成3年3月25日

大阪高等裁判所御中

抗告の趣旨

私の起こした事件に対する少年院送致というのはかなり重い処分だと思い抗告するしだいです。尼崎家裁では私が昨年5月にB子の妊娠中絶に関するカルテを盗みそれを彼女の家、彼女の近所に送りつけた事を非常に重くみて今回の処分となったわけですがこの件について私自身二つ納得できない部分があったので抗告したわけです。

一つはこれは事件として成立していないという点です。被害者であるB子はこれを事件として取り扱かわないように警察では話をつけているにもかかわらず家裁ではそれを重視しています。

そしてもう一つは、私自身でもたいへん非人道的な行いをしたと思いますが、この行いにも私自身それなりの理由があってこの行為に至ったわけです。私は彼女と以前、2年ほど交際していたのですが、その当時から夜、勝手に彼女の部屋に入ったりなどして交際していました。そして昨年4月1日彼女と別れることになっていたのですが、妊娠中絶の金銭問題で2人で言い争いをしていたところ、つい私が手をだしたところを彼女の母親に見つかりとがめられました。彼女の母親は、もう2人は半年前から別れていたと思っていたらしく警察、母校(兵庫県立○○高校)私の近所に「もう半年も前から、娘のB子にしつこくつきまとい、挙げ句のはてには殴りさえする、この子は気違いなのか」などと言いふらすのです。私はこれではたまらないと、母親に彼女とは先日までお付き合いしていたし、私の子だと称して妊娠したまでの関係なのにそんな言い草はないだろうと抗議しましたが、とりあってくれません。そして、しつこく私の母校で私を変態扱いし、私の名誉を著しく汚すのです。私は、警察にも呼ばれ法意をうけました。全くこの母親はいったいどこまで私に屈辱をあびせるのだろうと思ったものでした。まあ、それは全く赤の他人の女の子を殴っては言いわけのしだいもありませんが、私自身、彼女を別にしつように追いかけまわしていませんし、妊娠発覚時は、私自身、彼女から遠ざかろうと試みましたが、彼女のたっての願いで付き合った挙げ句、全く赤の他人が殴ってきたなどと公言されては元も子もありません、私はB子に「私とB子との関係ありのままを母親-警察、母校にB子自身の口から話し、誤解を解き、君の母親に自分の誤ちを気付かせ、今回の件は水に流すようにし、私に対する不等な行いやめるように」とたのみましたが、生返事ばかりでどうにもなりませんでした。挙げ句のはてにはB子が彼女の友人、Cという人物に私に「裁判ざたにするぞ」などと脅迫電話までかけさせるしだいです。

こう私自身、追いつめられ、周りに理解、助けても、警察では「どうせお前がまたみれんがましくあの女に付きまとっているのだろう」といった風に、私をみれんがましく女々しい男だときめつけ、私の事をとりあってくれないのではと途方にくれ、こうなれば事実を提持し、彼女、その母親に私の屈辱へ代償、また私の汚名をはらわせる為、私の言葉の真実性をみなに認めさす意味合いで、今回の非人間的行為に至ったしだいです。

また、昨年夏以降彼女とは3回ほど性交を結んだわけですがその内1回は私が無理にしたことを家裁で供述するといった風に、いつも彼女は自分自身不判になることは一切口にしないといったことを考慮せず、私の心情、言葉など一切取り上げてくれず、また一切の私に対する情状酌量もなく、彼女の言葉のみの一方的な解釈のもとでの今回の処分は妥当なものなのか私は疑問に思い抗告します。

又私は今件の拘束期間中、大学入学も棒にふり、また私自身にとって不服である今回のこの処分と二重の苦しみにあえいでいることも考慮して頂きたく思っています。

〔参考〕司法警察員作成の少年事件送致書の犯罪事実

(平成2年11月2日付け)

犯罪事実

被疑者は、尼崎市○○×丁目××番××号、Aの長女(19歳)と、かつて交際していたものであるがその後別れたにもかかわらず、復縁を迫る目的で、平成2年10月8日、午前8時30分ごろ、同所2階ベランダに侵入したものである。

(平成3年2月20日付け)

犯罪事実

被疑者は平成3年2月18日午前10時15分ごろ過去に交際していた女性(B子19歳)に会う目的で兵庫県尼崎市○○×丁目××番××号A方2階のベランダへ故なく侵入したものである。

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